近年、脱VMwareの動きが盛んになっています。これまでVMwareは企業のサーバー仮想化基盤として圧倒的な地位を占めていました。しかし、2023年から2024年にかけてのBroadcom社によるVMware社の買収と、大幅値上げを伴う新しいライセンス体系の発表によって、既存ユーザーにとって大きなインパクトを与えました。そこで今回はVMware問題を振り返ると共に、移行先としてOracle Linux Virtualization Managerの可能性を考えます。
VMware問題とは
きっかけは2023年末のBroadcom社によるVMware社の買収です。これまでVMwareは機能の豊富さや安定性、洗練された使い勝手、技術者の多さ、認定ハードウェアの多さなどからサーバー仮想化分野では圧倒的なシェアを誇っていました。
ところが、Broadcom社の買収に伴い、大幅に変更された新しいライセンス体系が発表されました。また既存ユーザーに対する猶予期間は短く、2024年2月5日以降に満了する既存の契約は更新できず、新しいライセンス体系での買い直しが必要になりました。その結果、1.5倍から20倍へのコスト負担が増加することが予測され大問題へと発展したのです。
VMwareの新しいライセンス体系
ライセンス体系の主な変更点は以下の通りです。利用する企業やシステムによって影響度は異なりますが、多くの企業にとって大幅なコスト増になることが懸念されています。なお、VMwareではサポートも含む価格体系全般をポートフォリオと呼びます。
- 買い切り型からサブスクリプション型への変更
これまでは、買い切りの「永続(Perpetual)ライセンス+保守サポート」でしたが、今後はライセンスと保守サポートを含んだ「サブスクリプションライセンス」へ変更になりました。従来はサポート契約を定期的に更新していればよかったのですが、今後はライセンスのエディションと、使用期間を1年、3年、5年から選択します。 - CPUソケット単位からCPUコア単位への変更
物理CPUソケット単位から、CPUコア単位での課金に変更になりました。従来は、コア数が多い高性能なCPUを利用してライセンスコストを削減できましたが、コア課金では利用できなくなります。また近年は50以上のコアを持つ高性能CPUも登場しているため、費用対効果を考慮しながら、適切なパフォーマンスとライセンスコストを最適化するサーバー選択が必要になります。 - 機能単位の販売から4つのエディションへの統合
これまでVMwareの製品体系は複雑で営業担当を悩ませるほどでした。しかし、新しい体系では以下の4つのエディションに統合されてシンプルになっています。ただし、以前は単独で購入できたVMware vSANやVMware NSXなどは、上位エディションにバンドルされているため、必要機能以上のエディションが必要になる可能性があります。エディション以外に、いくつかの機能はアドオンとして提供されています。- VMware vSphere Standard(VVS)
- VMware vSphere Enterprise Plus(VEP)
- VMware vSphere Foundation(VVF)
- VMware Cloud Foundation(VCF)
- エディションの選択制限
顧客が自由にエディションを選択できるのではありません。Broadcom社が定義する顧客セグメントに応じて、購入できるエディションに制約があります。そのため企業によっては必要以上のエディションしか購入できず、過剰投資になる可能性があります。
VMware問題の教訓
今回のVMware問題には、いくつかの教訓があります。代表的なところでは、圧倒的なシェアを持ったプロプライエタリなソフトウェアの怖さでしょう。これまでシェアが大きなプロプライエタリソフトウェアは、時折強気の価格政策をとることもありましたが、ここまでドラスティックな変更は珍しいです。
また、今回の大幅なライセンス体系変更は企業買収が発端になっています。VMware社は過去にEMC社やDELL社に買収されるなど、買収されるリスクが高かったことも大きな原因のひとつです。
そしてVMwareはサーバー仮想化基盤として機能が成熟しており、競合よりも優れた機能が多かったことで、コスト以外の競争原理が働きづらく、多くの利用者がいたことです。市場調査によっては、80%近くのシェアがあったとも言われています。
VMwareの移行を考える
VMwareの移行を検討するの利用者にとってコストがもっとも大きなきっかけですが、本当に移行したほうがよいのか、また最適な移行先は何なのか、十分な検討が必要です。
脱VMwareが正しい選択か?
新しいライセンス体系によるコスト増は脱VMwareのモチベーションですが、単純なランニングコスト比較での移行決断は早計です。機能面や運用面、移行面などを考えたうえで総合的に判断する必要があります。
別のバイパーバイザーへ移行するときの検討事項の一例を紹介します。
- 機能
- 同等の機能があるか
- 同等の機能が無い場合、システムの再設計や運用の変更でカバーできるか
- 構築・運用
- サーバー設計や構築の再実施
- ネットワーク設計や構築の再実施
- 運用手順書の再作成
- 開発チームや運用チームのスキル習得
- 移行
- 既存のゲストOSを使用できるか
- 既存のシステムは動作するか、もしくはベンダーサポートがあるか
- 移行時のシステム停止時間は許容範囲か
- 効率的な移行方法が存在するか
- 既存のバックアップツールや運用監視ツールは利用できるか
- 利用するサーバーやストレージが、移行先のハイパーバイザーをサポートしているか
特に、VMwareが優れているのは以下の点です。ある程度の規模の企業が使用するには、正規サポート対象であることは重要なので十分な検討が必要です。
- 多くのハードウェアやソフトウェアがVMwareに対応している
- 他の仮想化製品にはない数多くの機能を備えている
これらを評価して、移行先候補のハイパーバイザと比較すると共に、場合によっては検証作業も必要になるでしょう。最終的に評価した結果、移行しないという結論も立派な判断です。
また、上記の検討項目は単純移行を想定しているので、アプリケーション・モダナイゼーションなどがアプリケーションまで踏み込んだ更改が可能なときには、より抜本的な検討事項が必要になります。
VMwareの移行先
移行先として最初の選択は、パブリック・クラウドかオンプレミスかの選択です。パブリッククラウドではさまざまなところで語られているので、ここではオンプレミスを中心に説明します。
パブリック・クラウドへの移行
クラウドでは、おもに以下の2つの移行方法があります。
移行先 | 特徴 |
---|---|
Amazon EC2などの仮想マシンサービス | ランニングコストが安価になりやすい反面、移行する仮想マシンの数が増えると移行作業が大変になる。ネットワークの再設計だけでなく、インフラ全体の再設計が必要 |
クラウドが提供するVMwareサービス | VMware Cloud on AWSやAzure VMware Solution、Oracle Cloud VMware SolutionなどのVMwareソリューション。同じVMwareなので移行が簡単な反面、ソフトウェアコストはオンプレミスと変わらない可能性がある(ベンダーによって価格体系が大幅に異なる) |
オンプレミスでの移行
オンプレミスでの移行先候補としては、以下のようなサーバー仮想化製品があります。
- Oracle Linux Virtualization
- Microsoft Hyper-V
- Nutanix
- Red Hat OpenShift Virtualization
- Proxmox VE
- XCP-ng
以前のコラム「第12回 サーバー仮想化ソフトウェア比較」でも、いくつか紹介しているので、ここでは簡単に紹介します。ぞれぞれの違いを表したのが次の図01です。導入コストや機能は、それぞれの相対比較でVMwareとの比較ではありません。
表01:サーバー仮想化プラットフォーム比較
さらに実際に評価する検討軸の一例としては以下の項目があります。何でもあるに越したことはありませんが、もっとも大切なのは自身の要件を満たすかどうかです。
- ベンダとしての安定性: 開発ベンダーや開発コミュニティーが継続的に投資して開発しているか
- 機能・性能: 現在利用している機能やパフォーマンスを実現できるか
- 構築および移行コスト: 初期構築コストや既存環境の移行コスト、ダウンタイム等で発生するコスト
- ランニングコスト: ライセンス(購入タイプのみ)やサポートにかかるコスト
- サポート状況: ユーザーの希望するサポートレベルを得られるか。対応ハードウェアやソフトウェアの数
- 情報量: 大手ベンダー製品や利用者が多いほど情報量も多い
おわりに
今回はVMwareの移行を検討しましたが、Oracle社のサーバー仮想化製品のOracle VM Serverは2024年6月にExtended Supportが終了しています。すでに移行を済ませている利用者もいると思いますが、これから移行をする利用者もいるでしょう。それらの方々も参考にしてください。
次回は移行方式について説明する予定です。